京都観光白書2024 宿泊業界の現状分析と宿泊施設の不足問題
コロナ禍が収束し、世界的な観光都市である京都でも、インバウンド観光客の増大に伴って宿泊業界は活況を取り戻してきました。一方で、京都における宿泊業界が抱える問題点の指摘も続いています。
この記事では、宿泊業界の現状を分析するとともに、宿泊施設の不足と対策、そして新たに指摘される問題点と対応策について詳しく解説します。
目次
京都における宿泊業界の現況
京都市観光協会が公表した、直近(2024年9月)の京都市における宿泊業界の現況は概ね下記のとおりです。
- 宿泊施設の稼働率は76.7%となり、前年同月と比較すると上昇していますが、2019年同月の水準を6.2ポイント下回っています。
- 平均客室単価は17,353円で、客室収益指数と同様に2019年同月を31.7%上回りました。
- 旅館の客室稼働率は70.7%と2019年同月の水準を(9.6ポイント)上回り、前年同月においても上回っています。
- (京都に)「行こう指数」は、2019年同月の水準を30.6ポイントも上回りました。
参照:KTA Research Report
京都の宿泊業界の現状と今後の展望
まず、2019年~2024年にかけての京都の宿泊状況について解説します。
稼働状況の回復とインバウンドの増加など
前述のとおり、京都市における宿泊施設の稼働率と平均客室単価はどちらも上昇しており、コロナ禍による最初の緊急事態宣言から約4年を経過した今、順調な回復傾向を示しています。また、宿泊市場の回復にはインバウンド宿泊客の増加も大きく寄与していることが分かりました。
2024年4月における京都市の延べ宿泊客数をみると、インバウンド外国人観光客が69万人、国内客29万人(合計98万人)であり、2019年同月の62万人を大幅に上回っています。とりわけ、インバウンド宿泊客数は2019年同月比で186%と大きく増加しています。
宿泊施設の開発と今後の見込み
宿泊数が増加している背景には、需要の増加だけでなく宿泊施設における供給側の開発状況の変化も影響しています。京都市では、インバウンドの追い風を受けて2015年頃から宿泊施設の開発を進めてきました。
その結果、京都市のホテル・旅館客室数は2015年が26,297室であったのに対し、2023年は42,678室と約1.6倍にまで増加しています。
参照:京都市「旅館業法に基づく許可施設一覧」
その後、状況は2023年頃から変化し、それまで京都市内のホテル・旅館の客室数が年間5%~15%増で推移していたものが、2023年は前年比0.2%とほぼ横ばいとなりました。主な要因としては、コロナ禍で開発計画を中断したり、長引くコロナ禍での需要減の影響で廃業したりといった影響がありますが、主要なエリアの開発が一段落し、収益に見合う価格で確保するのが困難となったことも挙げられます。
こうした状況を宿泊客目線でみると、近年の開業ラッシュによってバラエティ豊かなホテルや旅館が増え、選択肢の幅が広がるメリットが指摘されています。今後は、それぞれの宿泊施設が特徴とブランドを深堀し、新たな価値を提供することが求められます。
京都の宿泊施設における人手不足の問題
京都市では、客室の稼働率が上昇する一方で、宿泊施設の人手不足問題が深刻です。コロナ禍が収束してインバウンド外国人観光客が堅調な反面、慢性的な人材難に加えて、相次ぐホテルの開業で人材の争奪戦が激化したことにより、働き手の確保が容易でない状況となっています。
京都市観光協会の調査によれば、京都市内での宿泊施設のうち約7割が「人手不足」と回答しており、また職種別にみると、接客業で人手不足と回答答したのが46%にのぼりました。宿泊業特有の昼夜を問わない勤務体系や賃金など、処遇面の不満が主な理由として挙げられますが、京都に特有の事情もあります。
上述のとおり、京都市内の宿泊施設数は大きく増加しており、特に外資系の大型ホテルや高級ホテルの開業によって人材の奪い合いが発生している状況です。また、インバウンド観光客の宿泊が多く、人手不足に対応できるはずの自動受付が困難で、スタッフによる人的な対応が欠かせません。こうした環境も人手不足の背景として挙げられます。
参照: 京都市観光協会 観光業界における人手不足についての臨時調査の結果について
宿泊施設急増に伴う課題と対応
平成28年10月に京都市が策定した「宿泊施設拡充・誘致方針」により、質の高い宿泊施設の拡充・誘致が推進されることとなりました。この背景としては、それまで指摘されてきた「宿泊施設の不足問題」への対応が挙げられます。
主な取り組みは次のとおりです。
- 地域や市民生活と調和した施設
- 市民と観光客の安心安全を確保した施設
- 多様で魅力ある施設
- 市全域の地域活性化につながる施設
- 京都経済の発展,文化・心の継承発展につながる施設
参照 : 京都市「宿泊施設の急増に伴う課題への対応」
宿泊施設拡大推進と成果
上記のような施策展開の結果、次のような成果が期待されます。
- 違法、不適正な民泊の減少
- 宿泊税制度の導入による財源確保
- 多様で魅力ある宿泊施設の増加
- 民泊を規制する建築協定の締結
- 宿泊客数の増加
宿泊施設増大による課題と取り組み
課題
京都市が抱える継続的な課題として、次のポイントが指摘されています。
- 宿泊施設が急増し、一部の地域に集中している
- 地域固有の歴史や文化、自然の魅力を活かした宿泊施設が必ずしも十分とはいえない
- 違法、不適正な民泊や苦情件数ともに減少傾向にある一方、引き続き根絶へ向けた取り組みが必要
- 都市格の向上に伴う、オフィスや研究所、住宅などの必要性が高まっている
取り組み
上記の課題に対し、2つの基本指針を掲げ、さまざまな取り組みを推進しています。
1. 市民の安心・安全,地域文化の継承を重要視しない宿泊施設はお断り!
- 宿泊施設と地域との調和を図るために実施する手続の充実(重点取り組み)
宿泊施設の整備に先立ち,安、安全や周辺住環境への配慮を促す手続の充実 - 宿泊施設の適正な運営の確保(同上)
住宅宿泊事業法に基づき、当該規定の徹底によって宿泊施設の適正な運営の確保を図る - 経済団体と連携した関係業界への要請、企業立地マッチング支援制度の開始(同上)
オフィスの必要性が高まる中、「地域と調和せず、地域活性化や文化の継承につながらない施設は控えていただきたい」旨の要請を実施 - 観光と調和しながら安心して暮らし続けられる活力に満ちた都市の構築(同上)
地区計画、建築協定を活用した地域主体のまちづくりの積極的な推進 - 不足するオフィス、研究開発拠点や子育て世代のニーズに合った魅力的な住宅の供給に向けた都市計画手法の活用
空き家の流通促進、子育て・教育環境の充実や企業誘致など,総合的な施策の展開 - 違法民泊の根絶および「適正な運営の確保に向けた、国における指導監督の徹底と地域の実情を踏まえた法制度への見直し
- これまで掲げられた各種事業を継続的に推進
2. より質の高い宿泊観光への進化
- 京の農山村資源を活用したグリーンツーリズムの推進(重点取り組み)
北部山間地域において農家民宿の新設や拡充を支援するなど、京の農山村の魅力を活かしたグリーンツーリズムを推進 - 地域とともに地域活性化に取り組む宿泊施設の支援(同上)
地域の持続的発展に向けて宿泊観光の効果を市民生活の豊かさにつなげるため、地域団体との協働によるまちづくりや地域貢献に取り組む質の高い宿泊施設を、補助金や表彰によって支援し、拡大を図る「地域協働・貢献型宿泊施設促進制度」を創設し、運用開始 - 時期、時間、場所の分散化強化
朝観光、夜観光のコンテンツ発掘、プロモーション強化(情報を集約したサイトの開設、鉄道会社との連携など)
まとめ
京都における宿泊業界の現状を分析するとともに、宿泊施設の不足と対策、新たに指摘されている問題点と対応策について解説しました。京都は世界に名だたる観光都市であり、コロナ禍の収束後はインバウンド観光客を中心に再び活況を呈している一方、さまざまな課題も抱えています。
この記事を読んで、京都観光に関連する事業者は現状と対策を確認し、事業拡大へ向けて是非お役立てください。