紫野の風を味わう 松屋藤兵衛「紫野松風」

紫野の風を味わう 松屋藤兵衛「紫野松風」

京都市北区・紫野雲林院町。大徳寺のそばに、木の看板に墨文字で屋号を掲げた小さな和菓子店が見えてきます。松屋藤兵衛は、江戸時代中期に創業して以来、二百四十年以上ものあいだ暖簾を守り続けてきた老舗です。格子戸をくぐると漂う香ばしい味噌と砂糖の匂い。昔ながらの職人が銅鍋をゆっくり撹拌しながら練り上げる生地の気配に、時間がゆるやかに巻き戻されるような感覚を覚えます。

松屋藤兵衛1

松屋藤兵衛2

「紫野松風」 味噌と納豆が奏でる奥深さ

紫野松風1

紫野松風 10個入 1,050円

看板菓子「紫野松風」は、見た目こそ薄焼きのカステラのようですが、ひと口で印象が大きく変わります。甘さを包み込むのは、大徳寺納豆を砕いて練り込んだ塩気と熟成味噌の豊かなうま味。噛むほどに米麹の甘露と納豆のコクが舌に重なり、最後に和三盆のやさしい余韻が残ります。軽やかな生地の表面に散らした芥子の実がほのかな香りを添え、あとを引くおいしさです。茶の湯文化とともに育まれた味わいは、緑茶はもちろん、コーヒーや赤ワインとも相性が良く、世代を問わずリピーターを生み出しています。

手土産に選ばれる三つの理由
まず、切り分けやすい板状の形が旅先での配り菓子に最適であること。次に、味噌と納豆という意外性が「ありきたりではない京都みやげ」を探す女性たちの心をくすぐること。そして、保存料を使わず当日焼き上げで提供するため、常温で三日ほど香りが持続し、帰宅後にも焼きたてに近い風味を味わえることです。包装紙には紫野の地紋を思わせる落ち着いた紫色が用いられ、バッグから取り出した瞬間に上品さが伝わります。

訪れる前に押さえておきたいポイント
紫野松風は一枚一枚手焼きのため、午後には完売する日もしばしばです。電話で取り置きを頼んでおくと確実ですが、店頭で焼き上がりを待つ時間も楽しいひととき。店内の奥には、干菓子「珠玉織姫」が色とりどりに並び、待ち時間に目と舌を楽しませてくれます。最寄りのバス停「大徳寺前」から徒歩五分。周辺には大徳寺や今宮神社、季節ごとに表情を変える路地が点在していますので、お散歩がてらの寄り道にもぴったりです。

まとめ
紫野松風は、京都らしい雅びを湛えつつもどこか親しみやすく、世代や国籍を超えて愛される銘菓です。焼き上がったばかりの素朴な香りと、味噌と納豆が織り成す奥行きある甘じょっぱさ。旅の思い出を包んで持ち帰れば、自宅に帰ってからも京都の風を感じられるはずです。次回の京都散策では、紫野に足を延ばしてみませんか。

紫野松風2

七夕と西陣の文化を映した「珠玉織姫」

珠玉織姫

珠玉織姫 700円

「珠玉織姫(たまおりひめ)」という名前の由来は、七夕伝説の主人公・織姫と、京都が誇る西陣織の糸文化。そのふたつを掛け合わせ、愛らしく、かつ奥行きのある一品に仕上げたのがこのお菓子です。

見た目は直径1cmほどの色は白・赤・黄・青・茶の五色の小さな玉。。これは七夕の五色の短冊にちなんでいます。

食感はほろりと崩れる柔らかさ。寒梅粉と白蜜で仕上げられ、口に入れた瞬間に素材の香りがふわっと広がります。それぞれの色には味が違い、たとえば赤は梅肉、黄色は生姜、白は胡麻、青は柚子、茶色はニッキ。和の香りがそれぞれの玉に封じ込められており、ひとつずつ味わうごとに、織姫が織り上げた糸のように物語がほどけていく感覚になります。

この五色の玉は、星々がきらめく天の川を連想させ、さらに西陣織の糸玉のイメージとも重なります。包装もまた美しく、木箱入りや糸巻きを模した小皿付きのものもあり、贈り物として選ばれる理由がそこかしこに詰まっています。七夕の物語、西陣の職人技、そして京都という土地に根づく信仰や風習が一体となった“文化の結晶”とも言える存在です。

店舗の近くにある今宮神社の境内にある「織姫社」は、織物の神を祀る由緒ある場所で、地元の人々からも信仰を集めています。

観光のお土産にはもちろん、季節の贈答や七夕に寄せたプレゼントとしてもおすすめ。「想いを込めて贈る」という文化が薄れがちな今だからこそ、このように背景の深いお菓子が持つ意味はよりいっそう輝きを増して感じられます。

店名

松屋藤兵衛

営業時間

09:00 - 18:00

住所

京都市北区紫野門前

アクセス

地下鉄 北大路駅から徒歩15分

定休日

木曜日

電話番号

075-492-2850