秋の特別展「木下勝俊公遺愛 静形薙刀・巴形薙刀公開」｜高台寺掌美術館で深まる秋の文化体験

高台寺は、豊臣秀吉の正室・ねねが晩年を過ごし祈りを捧げた東山エリアの名所です。高台寺掌美術館では、ねねゆかりの調度品や繊細な蒔絵作品など、彼女の暮らしを感じられる美しい品々が展示されています。

館内には桃山文化の気品ある雰囲気が広がり、訪れるたびに当時の生活や文化が自然とよみがえります。今秋は、ここでしか見られない「木下勝俊公遺愛 静形薙刀・巴形薙刀公開」という特別展が開催されます。

ねねが深い愛情を注いだ甥、木下勝俊にまつわる二振りの薙刀が一般公開される貴重な機会で、歴史を知るほど魅力が増し、美術的価値にも心を奪われる展覧会です。

ねねの美意識が息づく美術館

高台寺掌美術館は、桃山時代を象徴する蒔絵の名品をはじめ、秀吉・ねねゆかりの品々や関連寺院の文化財を丁寧に公開する場所です。

館内には、黒漆に金銀の輝きが映える蒔絵の調度品、肖像画、刀剣などが並び、桃山文化の美意識の高さを感じさせます。

とくに蒔絵は同館の大きな見どころで、菊桐紋や桐紋といった豊臣家ゆかりの家紋が散りばめられた調度品は、ねねの品格や美の感性を今に伝える貴重な資料です。

また、展示替えが行われるため、季節を変えて訪れる楽しさがあります。高台寺の散策とあわせて立ち寄ると、庭園の景色と美術館の静けさが心地よくつながり、京都ならではの時間の流れを感じられます。

二振の薙刀が語る木下勝俊の素顔

2025年秋、掌美術館では、木下勝俊（長嘯子）ゆかりの二振「静形薙刀」と「巴形薙刀」が特別公開されます。

木下勝俊はねねの甥で、若いころは秀吉に仕えて城主となり、後年には歌人としても名を残した人物です。ねねが特に目をかけた親族であり、高台寺の歴史にも深くかかわっています。

今回公開される二振は、勝俊が実際に所用したと伝わる品で、歴史資料としても美術品としても大変貴重なものです。

「静形薙刀」は鎌倉時代末期から南北朝時代に作られたとみられ、細身で反りが小さい形状が特徴です。刀身には磨き上げを重ねた痕跡が残り、矢傷とみられる跡から実戦で使われた可能性も感じられます。


静形薙刀

一方、「巴形薙刀」は桃山から江戸中期にかけての作とされ、幅広で大きく反った力強い造形が印象的。波打つようにのびやかな刃文が美しく、静形とはまったく異なる魅力を放ちます。


巴形薙刀

二振を並べて見ることで形や表情の違いがより鮮明になり、武具としての個性が際立ちます。この二振に加え、木下勝俊の肖像画や蒔絵の調度品など、高台院ゆかりの展示品もあわせて公開されます。

ねねが暮らした高台寺に残されたお品の数々は、武家文化と美意識をいまに伝える貴重な資料です。館内で薙刀と蒔絵の世界を眺めていると、ねねや勝俊が過ごした時間がゆっくりと流れているようで、歴史の深さを静かに感じられます。

秋の高台寺とともに味わう特別な鑑賞体験

秋の東山は、紅葉の彩りと文化の趣が溶け合う特別な季節です。高台寺の庭園では、秋が深まるにつれて木々が鮮やかに色づき、境内を歩くだけで心が落ち着くような静けさに包まれます。

なかでも夜間特別拝観では、ライトアップされた庭園が水面に映り込み、幻想的な光景が広がります。

この季節にあわせて掌美術館の特別展を訪れれば、歴史と自然の魅力を同時に味わう贅沢な時間になります。ねねが大切にした調度品に触れ、秋の景色とともに当時の暮らしを想像するひとときは格別です。

展示内容は深みがあり、一点ずつじっくり眺めることで、ねねの生活や美意識にそっと寄り添えるような感覚が得られます。