京都観光白書2024 文化財保護と観光振興のバランス—地域と観光業の共存を目指して
世界的にも有名な観光都市・京都ですが、京都府では文化財保護と観光振興のバランスを図り、地域と観光業の共存を目指してさまざまな施策を積極的に展開しています。
この記事では、京都府における文化財保護や観光振興に関する取り組み、また具体的な事例について取り上げ、詳しく解説します。
目次
京都府の取り組み「文化財を活用した文化観光の推進による地方創生パッケージ」
京都府では、「文化財を活用した文化観光の推進による地方創生パッケージ」という施策を掲げ、京都が誇る長い歴史や豊富な文化をアピールするよう注力しています。
先般京都府に移転した文化庁が管轄し、京都での地方創生を実現するため、京都における「地域の宝」である文化財における新しい価値を官民連携によって創造し、持続可能な活用を推進しています。
参照 文化財を活用した文化観光の推進による地方創生パッケージ
文化観光推進本部の機能強化
京都では前述した文化庁内における関係部課を連携させ、文化財の活用(観光活用や資金調達など)に関する民間の人材を配置しています。
官民連携によって新たな価値を創造するため、文化財における専門の職員(文化財調査官)を中心として、全国各地に対する伴走支援の実施に向けて機能の強化を図っています。
また、京都文化庁内に文化財の活用に関する相談窓口を設置し、活用に関連するセミナーを全国で開催しています。
文化財を高付加価値化する事業の創設
京都では文化庁が旗振り役となり、価値の高い文化財の活用を目指すコンテンツ造成事業が進められています。
- 全国各地の魅力的な文化財活用推進事業(令和6年度予算額(案):724百万円)
施策を活用するために必要な文化財建造物の改修や多言語化など、インバウンド観光客が滞在中に快適性を向上する整備の支援を充実させています。またこれらの活動が一過性に終わらないよう、民間の専門家がコーチングや資金調達(寄付や融資)をサポートし、持続可能な仕組みの構築に取り組んでいます。
- 高付加価値化された文化財への改修・整備促進事業(同:946百万円)
- 文化財多言語解説整備事業(1,757百万円)
京都の文化・伝統を活用した観光振興
京都市では、京都ならではの文化や伝統を活かして観光を盛り上げています。その推進役である京都市観光協会は、京都観光の大切な価値である多彩な文化を守りつつ、観光を通じて文化理解を深める機会を創出し、文化の発展と地域活性化の好循環を目指しています。
具体的な取り組み施策(ゴール)として、次の3点が活動のポイントとなります。
高付加価値体験の開発と流通
京都の文化財にさらなる価値を与え、観光客にとって新しい魅力となる体験を提供するモデル事業を目指します。
観光による文化貢献度の可視化
観光産業が京都文化の保存や発展に果たしている役割を明確に伝え、訪れる観光客が京都文化に貢献していると実感できるような仕組みを構築します。
既存の文化に「従来ない角度」から注目した新規観光振興事業の確立
従来の観光分野では取り上げられてこなかった文化資源に新しい視点を当て、新たな観光事業を展開していきます。
取り組み事例
京都における具体的な取り組み事例を5つ取り上げて解説します。
国立大学法人京都工芸繊維大学
事業概要
京都工芸繊維大学は、京都高等工藝学校(1902年設立)と京都蚕業講習所(1899年設立)を前身とし、日本文化の源ともいえる京都の風土の中で培われた「知と美と技」を探求する国立大学です。
活動状況
同大学は、平成23年度文化庁文化芸術振興費補助金「文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業(ミュージアム活性化支援事業)」で「京都のミュージアム活性化プロジェクト」に採択されました。
今後の取り組み
上記の事業を実施する京都・大学ミュージアム連携実行委員会は、同大学の学文化遺産教育研究センターが運営の拠点となり、京都市内の大学ミュージアムを保持る大学が連携・協力して相互の活性化を図るとともに、各ミュージアムの収蔵資料や展覧会活動などを通じて京都市の観光振興や地域活性化を推進します。
京都嵐山 良彌(よしや)
事業概要
京都・嵐山で80年以上営業している多国籍レストラン「良彌(よしや)」は、伝統的な和食から精進料理、またダイニングや路面店、土産物店などを展開しています。
活動状況
良彌は、京都市が積極的に推進する京都観光モラル事業である「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」に選定され、海外と地元中学生間の交流で橋渡し役を担っています。
インバウンド観光客にとって「食事処は行動の拠点になる」という理念に基づき、1970年代からオリジナルの散策マップを製作して観光客に配布しています。
今後の取り組み
顧客の声を参考にさまざまなメニューを考案し、海外からのインバウンド観光客に対して「日本を楽しんでいただく」ことをモットーとして、各国の食文化に親和性のある食メニューの開発を重ね、きめ細やかで多様なサービスの提供に努めています。
参照 京都観光協会「~京都観光事業者インタビュー~京都嵐山 良彌」
ホテル日航プリンセス京都
事業概要
ホテル日航プリンセス京都は、京都随一の繁華街である四条烏丸近くに立地し、開業後約20年を迎える総合ホテルです。
活動状況
同ホテルは、京都観光を楽しむ人々のステイ拠点としての役割を担っています。また、京都祇園祭や災害対応などに際しての地域貢献や、独自のリサイクルシステムによって京都市や国からも高く評価されています。
こうした姿勢から、同ホテルは京都市が推進する京都観光モラル事業「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」に選定されています。
今後の取り組み
世界中の観光客が集まる京都で、ホテルとしての使命と存在意義は非常に大きく、どのように地域と共存共栄が実現できるかがポイントと考えています。
このため、100年後も愛されるホテルとして、京都が100年後も世界の人々に愛され続ける街を目指し、地域や環境、また社会の安全や発展・持続に貢献することを目標としています。
参照 ホテル日航プリンセス京都
アオイ自動車
事業概要
アオイ自動車は、京都市洛北を拠点として60年にわたりタクシーの運行を担ってきた優良事業者です。
活動状況
同社は、観光客を移動させる「足」としては当然ながら、京都ガイドのプロとして、ユニバーサルサービスをはじめとする地域連携や環境・働き方・産学連携など、多種多様な方面で積極的な活動を実践しています。
同社はまた、京都市が推進する京都観光モラル推進宣言事業者としても活動しています。
今後の取り組み
車イスの利用者や高齢者、小さな子ども連れなど、全ての乗客に利便性の高いユニバーサルデザイン車両導入にいち早く取り組んでおり、今後もエコドライブについて乗客一人ひとりのモチベーションが上がるよう、ドライバー別の燃費ランキングを公表するなどの工夫を含めてチャレンジを続けています。
参照 アオイ自動車
京都ハンディクラフトセンター(アミタ株式会社)
事業概要
アミタ株式会社は、昭和7年創業以来、長きにわたって日本の伝統工芸品を海外に向けて販売してきた老舗です。
活動状況
同社では、従来から外国人を対象に事業を展開してきた強みを活かし、京都における地域の子どもたちの英語教育に貢献したいという思いを強く持っていました。
そして、同社が運営する京都ハンディクラフトセンターの一角に「英語の絵本 SAIKA」をオープンし、市民生活と観光の調和の実現に向けた取り組みを通じ、将来の観光事業者に欠かせないマインドを探求しています。
今後の取り組み
同社が長く携わってきた伝統工芸の分野において「サブスクリプション型」のレンタルサービス導入など、新規な展開を模索しています。
そして、従来の販売方法にこだわらず、消費者が伝統工芸品に触れるチャンスを更に拡大することで、減少が続く職人たちを守る意向です。
参照 アミタ株式会社
まとめ
京都における文化財保護や観光振興に関する取り組み、また具体的な事例について取り上げ、詳しく解説しました。世界的にも有名な観光都市である京都は、長い歴史と伝統に彩られるさまざまな文化財保護と観光振興のバランスを考慮しながら、地域と観光業の共存を目指して注力しています。
京都の文化財保護と観光振興に関心がある事業者は是非お役立てください。