
浄瑠璃寺 きしょうぶ 画像提供:木津川市観光協会
花火もアートもお寺も。木津川で“ちょっと特別”な時間を
京都市内の観光スポットは、いつ訪れても国内外の人で賑わっています。そんな中、近年じわじわと注目を集めているのが京都府南部の木津川市です。
京都と奈良の間にあり、奈良市内から電車で約10分、京都駅や大阪からも1時間圏内とアクセスも良く、日帰り旅にも最適な立地。自然や歴史が調和するこのまちには、観光の新しい価値が広がっています。多様なイベントや文化的な取り組みの背景には、地元の人々の温かな思いや、未来を見据えたまちづくりの姿勢がありました。
今回は木津川市役所・観光商工課の小西さんに、市が今発信したい魅力や今後の展望について伺いました。
今年の夏は木津川市市民まつりへ
木津川市市民まつり花火 画像提供:木津川市観光協会
「2年前からは市外の方にも楽しんでいただけるようにと広報を進めています。夏の木津川をぜひ体験していただけたら嬉しいですね」
そう語る小西さんが紹介してくれたのが、8月に開催される「木津川市市民まつり」。夜店や花火大会が人気のイベントですが、2023年からは市外の来訪者にも門戸を開き、新たな夏の風物詩として広く発信されていく予定です。
会場には多彩な夜店が並び、夜には情緒ある花火が夏空を彩ります。近年は広域からの集客にも取り組んでおり、来訪者と地元の人たちがともに楽しめるイベントへと進化しつつあります。
街じゅうが美術館になる「木津川アート」
もう一つの注目イベントが、2年に一度開催される「木津川アート」。
「街中に作品が点在する芸術祭です。今回で9回を数える木津川アート、今回は9月から本番を迎えます」
と語られたのは、2年に一度開催される「木津川アート」について。地元や全国のアーティストによる現代アート作品が、市内の各地に展示されるこのイベントは、市外から多く来場され、住民とアートが出会う貴重な場でもあります。
展示場所には古民家や神社、廃校など、地域の風景そのものが活かされ、作品と空間の対話が楽しめます。芸術を通じた地域活性の好例としても注目されています。今回は、大阪・関西万博にあわせて開催されている、けいはんな万博として参画されています。
文化財の特別公開と奈良からのアクセスバス
木津川市は、国宝や重要文化財の数が京都市に次いで府内2位。市内各地に点在する仏像や古刹は、静かな人気を誇ります。
「春や秋には、普段は非公開のお寺や仏像の特別公開もあり、奈良方面からのアクセスバスも運行しています」
たとえば、国宝・浄瑠璃寺では、2025年現在9体すべての仏像が揃った状態で拝観できるとあって、歴史愛好家の間で話題となっています。文化財の保全と観光を両立するため、期間限定の公開となっているものもあるなど、地域の配慮もうかがえます。
SNSでじわじわ人気、映えるスポットたち
紫陽花の岩船寺 画像提供:木津川市観光協会
「最近は岩船寺のアジサイや、地域住民が手入れしているコスモス畑のほか、秋になると紅葉が美しい浄瑠璃寺や海住山寺などがSNSで話題になることも増えてきました」
木津川の自然風景も近年SNSを通じて広がりを見せています。石仏の道やハイキングコース沿いには、フォトジェニックな風景が点在し、若い世代の観光客からの関心も高まりつつあります。
秋には、黄金色に染まる田園風景とともに、散策が楽しめるのも魅力のひとつです。歴史的・自然的資源が豊富にあるからこそ、偶然の風景が旅の記憶になるのかもしれません。
パンのまち?グルメも見逃せない
「関西文化学術研究都市としてのまちづくりが進むなか、新しい住宅地もでき、おしゃれなパン屋さんが増えてきました。“パン巡りマップ”も作って、観光のひとつとしてご紹介しています」
シュクレブールが美味しい「レガル」ほか市内にはバラエティ豊かなパン屋が点在し、地元ならではの個性ある味に出会えます。また、地元の食材とイタリアの伝統を融合させ、お茶のペアリングで革新性を追求する「リストランテナカモト」や、豚骨の旨味を極限まで追求した「純粋派豚骨ラーメン」の名店「無鉄砲」、老舗のお茶ブランド「福寿園」など、食の選択肢も多彩です。
お茶のテーマパークとして整備された福寿園の直営施設「山城館」では、お茶の歴史や文化に触れることができ、茶問屋街の落ち着いた景観とあわせて、木津川ならではの味覚体験ができます。
歩いて楽しむ木津川の旅
ほか、「石仏の道」や「大仏鉄道遺構」「山背古道」など、歴史に触れられるハイキングコースも充実しています。福寿園のある茶問屋街も、宇治とはまた違った静かな趣があり、歩く旅の醍醐味を味わえるエリアです。
さらに、奈良市と連携して制作されたパンフレットもあり、かつて走っていた大仏鉄道の跡地を辿る“遺構巡り”は、歴史好きの間で密かな人気を誇ります。歩くことで見えてくる地域の物語が、旅の余韻を深めてくれます。
今後の観光誘致と多文化の広がり
「京都市内のオーバーツーリズムの問題もありますので、南部地域への分散という視点で木津川に足を運んでいただけるような工夫は、今後より必要になると考えています」
市内には近年、ベトナムを中心とした外国人居住者が増加。多文化共生の取り組みも進められており、観光もまた、その一環として海外発信への可能性が模索されています。
「その方々を通して母国へも情報発信していけたら」と話す小西さんの言葉には、地域と世界をつなぐ新たな観光のかたちへの期待が込められています。
今後は、観光資源の磨き上げとともに、地域内外との連携強化も進められていく見込みです。歴史・自然・食・芸術が調和するまち木津川。次の京都旅では、ほんの少しだけ足を伸ばして、その魅力に触れてみてはいかがでしょうか。