
川のせせらぎに包まれて、時を味わう「鮎茶屋平野屋」
京都・嵯峨鳥居本。時代の流れから一歩離れたかのようなこの地に、静かに佇む茅葺き屋根の料亭「鮎茶屋平野屋」があります。創業は江戸時代初期、愛宕神社への参詣者をもてなす茶屋として始まったこの店は、約400年の歴史を誇る老舗です。趣のある門をくぐり、風情あふれる石畳を進むと、そこには川音とともに過ごす特別なひとときが広がっています。
背後には愛宕山、目の前にはせせらぎ。昔ながらの土間と「おくどさん(かまど)」、木のぬくもりが感じられる個室からは、自然の音が絶え間なく耳に届きます。建物内の座敷には赤毛氈が敷かれ、川辺に面した縁台では、美空ひばりや萬屋錦之介といった往年の名優たちもくつろいだとか。長い歴史の中で育まれた空間は、ただの食事処ではなく、物語を味わう場所でもあるのです。
現在でも「志んこ団子」と抹茶が提供され、かつての参拝者たちと同じように、旅の途中でほっと一息つくことができます。団子の螺旋状の形は、愛宕山の急勾配を象徴し、登山前のエネルギー補給として親しまれてきました。変わらぬ伝統の味と、変わらない風景が、訪れる人の心をほぐしてくれます。
心にしみる一椀「鮎茶漬け」の魅力
鮎茶漬 2,300円
「鮎茶漬け」は、平野屋の名物料理のひとつ。参拝前の“むしやしない(軽食)”として親しまれてきたこの一椀は、見た目は素朴ながら、味わいは奥深い逸品です。
保津川の清流で育った天然鮎を、じっくりと香ばしく焼き上げ、ごはんの上に丁寧にのせます。そこへ注がれるのは、昆布や鰹から引いた一番出汁。すっと茶碗を包みこむ湯気とともに、焼き鮎の香りがふわりと立ち上ります。さらに、季節の山菜や薬味が彩りを添え、口に運ぶごとに、川の恵みと土地の優しさが広がります。
かつての参拝者たちは、この鮎茶漬けを食べてから険しい山道に挑みました。今でも変わらぬ製法で作られるこの料理は、ただの軽食ではなく、身体と心にそっと寄り添う京の味。旅の途中で立ち寄った観光客にも、京都の奥深さと自然のぬくもりを伝えてくれます。
春の芽吹き、夏の清涼、秋の紅葉、そして雪景色の冬。それぞれの季節に違った顔を見せてくれる鮎茶屋平野屋。訪れるたびに、新しい京都に出会えることでしょう。
店名 | 平野屋 |
営業時間 | 11:30 - 21:00 |
住所 |
京都市右京区嵯峨鳥居本仙翁町16 |
アクセス |
京都バス 愛宕寺前 徒歩3分、JR嵯峨嵐山駅 徒歩30分 |
定休日 | 不定休 |
電話番号 |
075-861-0359 |
公式サイト |
http://ayuchaya-hiranoya.com/ |