
京都・桂の老舗和菓子店「中村軒」で味わう逸品
桂離宮の南、桂橋のそばにある「中村軒」。のれんをくぐると、そこは明治の空気をそのまま残したかのような空間。創業は1883年。かつて麦の刈入れ時に農家が買い求めた「麦代餅(むぎてもち)」が名物であり、今も店頭に並ぶ看板商品です。
ただ、中村軒の魅力は和菓子だけにとどまりません。店内の茶店では、四季折々の甘味のほか、地元民にも人気の軽食メニューがいくつか用意されています。和菓子屋ならではの発想と技術で丁寧に仕上げられた品々です。
和菓子屋の矜持が詰まった「うなぎ茶漬け」
うなぎ茶漬け 1,650円
その中でもひときわ異彩を放つのが「うなぎ茶漬け」です。甘味処でうなぎという以外な一品は、和菓子作りで培われた繊細な手仕事と味覚の設計が、うなぎのつくだ煮という食材に見事に活かされています。
お茶漬けの主役となるのは、国産うなぎの白焼きを醤油や山椒などで甘辛く炊き上げられたうなぎのつくだ煮。丁寧にカットされた身は、ひと口サイズながらも存在感のある香ばしさ。そこへ、さらりと熱々のほうじ茶を注ぐと、山椒の香りがふわりと立ち、食欲をそそります。
この「うなぎ茶漬け」は、お茶の香ばしさと、つくだ煮のコク、そして白ご飯の素朴さが絶妙。添えられた漬物や昆布の佃煮との相性も抜群で、箸が止まらなくなる味わいです。
観光途中にちょっとひと息つきたいときや、甘味の合間に塩気を求めるタイミングにぴったりの一杯です。
旅の締めに、さっぱりと。忘れがたい後味
麦代餅や季節の和菓子も絶品ですが、何度も訪れるうちに、この「うなぎ茶漬け」を楽しみに通うようになる常連客も少なくないと聞きます。
歴史ある和菓子店だからこそ実現する、品のある味わいと京都らしい奥ゆかしさ。どこか懐かしく、そして新しい——そんな不思議な余韻を残す「うなぎ茶漬け」は、旅の記憶に静かに刻まれるはずです。
中村軒の麦代餅
麦代餅 360円
中村軒を代表する和菓子といえば「麦代餅(むぎてもち)」です。
その名は、かつて農家が麦の収穫作業の合間に食べるため、この餅と引き換えに麦を渡していたという逸話に由来します。今ではその由来を知る人も少なくなりましたが、食べた瞬間に「あぁ、これはずっと昔から食べ継がれてきた味だ」とどこかなつかしさを感じるものがあります。
麦代餅は、つきたてのもち米に、小豆の粒あんを包み、たっぷりのきな粉をまとわせた、素朴でいて滋味深い一品。餅はやわらかさの中にほんのりコシがあり、あんこは上品な甘さ。口の中で自然にほろっと崩れ、最後に香ばしいきな粉の香りが抜けていきます。
この餅、噛むほどに印象が深まっていく。味のバランスが良いのはもちろんですが、素材の選び方、製法の丁寧さがその背景にあります。もち米は厳選された国産を使い、あんこは薪のかまどで炊いた昔ながらの製法。手間を惜しまないその姿勢が、一口に宿る余韻をつくっているのです。
ちょっとしたお土産や、甘味は控えめに…という方にも人気です。
中村軒 夏季限定 「桂うり」のかき氷
桂うりの氷 760円
「桂うり」は、江戸時代から桂地域で栽培されてきた伝統野菜。完熟するとメロンのような芳香と、上品でやわらかな甘みをまとい、まるでフルーツのような味わいになりますが、近年は生産者が激減し、一時は“幻の京野菜”と呼ばれるほどに。
中村軒ではこの「桂うり」を活用し、地元と協働したメニュー開発を行いました。シロップの試作を重ね、瓜そのものの風味が活きるよう控えめな甘さに調整。地産地消の精神と教育的な連携を兼ね備えた、まさに地域の誇りともいえる一杯が誕生したのです。
氷と果肉、スダチが織りなす夏の味覚
「桂うりの氷」に使われるシロップは、完熟した桂うりの果汁に加え、細かく刻んだ果肉がゼリー状になって混ぜ込まれており、氷の冷たさとふるふるとした食感のコントラストが心地よい驚きを生み出します。さらに、提供時に添えられるスダチを絞れば、上品な甘みにほどよい酸味が加わり、全体の味が一層引き締まります。
そのままでも充分に完成された味わいですが、常連客の中には麦代餅を追加注文して一緒に楽しむ人も。香ばしいきな粉の香りと餅のコクが、かき氷の清涼感と絶妙なバランスをとってくれます。
このかき氷は夏季限定。しかも月ごとにフレーバーが変わる中での提供となるため、出会えるタイミングにも一期一会の趣があります。たとえば8月にはスダチ、9月にはいちじくのフレーバーも登場し、「次はどんな味に出会えるだろう」と心待ちにするファンも少なくありません。
京都の“涼”を体感するひととき
老舗の庭園を望みながら、京野菜の芳香をまとった氷を口に運ぶ。そこには、ただの甘味にとどまらない、京都らしい「物語」と「土地との結びつき」が詰まっています。
桂離宮の見学と併せて立ち寄る観光客も多く、季節の風情を五感で楽しむにはうってつけのスポット。冷房では得られない、自然の風と甘味が運ぶ「涼」は、まさに京都の夏の贅沢といえるでしょう。
店名 | 御菓子司 中村軒 |
営業時間 | 10:00 - 17:00 店頭販売 8:30~17:30 |
住所 |
京都市西京区桂浅原町61 |
アクセス |
阪急 桂駅 徒歩11分 |
定休日 | 水曜日 |
電話番号 |
075-381-2650 |
公式サイト |
https://www.nakamuraken.co.jp/ |