泉屋博古館 特別展「文化財よ、永遠に2026 -次代につなぐ技とひと」開幕。住友財団が支える「現状維持」の修理とは
京都市左京区・鹿ヶ谷にある泉屋博古館で、特別展「文化財よ、永遠に2026 -次代につなぐ技とひと」が開催されています。今回の展覧会では、住友財団の助成を受けて行われた文化財修理の成果が紹介され、普段は見ることのない修理の過程や判断の背景まで知ることができます。
私たちは、博物館や寺社で文化財を目にする際、それが当たり前に残されていると感じがちです。しかし実際には、長い時間を越えて現在に伝わるまでに、絶え間ない修理が重ねられています。学芸員の竹嶋さんに話を伺うと、その裏側には技術だけでなく、多くの判断と責任があることが見えてきます。
阿弥陀如来坐像 重要文化財 泉屋博古館(通期展示)
これに対して「復元」は、制作当初の姿に戻す行為です。両者の境界は単純ではありませんが、仏像のように信仰対象となるものでは、欠けた部分を補う場合もあります。その際も、後世の研究者が判別できるようにし、次の修理で取り外せるようにしておくことが基本となっています。見た目を整えることよりも、歴史的な情報を残すことが優先されている点が特徴です。
修理前の「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」重要文化財
美しくよみがえった「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」
塩川文麟筆 報恩寺本堂障壁画「群仙図」京都府指定文化財 報恩寺(前期展示 4/4~5/17)
修理は現状維持、くりぬかれた目に新たに表現は付け加えない
宝珠台 京都府指定文化財 海住山寺(Ⅰ期展示)
左:釈迦如来立像 右:毘沙門天立像 ともに河内長野市指定文化財 大阪・下岩瀬薬師保存会(通期展示)
大工頭中井家関係資料のうち「数寄屋建地割 千利休好 山崎妙喜庵有之」重要文化財 中井正知・中井正純(大阪市立住まいのミュージアム寄託)(作品入替で通期展示)
また、上賀茂神社の大切な手紙を貼り付けたアルバムである「大手鑑」の修理では、将来また歪むことを覚悟の上でたわんだ台帳に貼り戻すか、あるいは台帳から手紙を取りだし、手紙が折れないよう平置きで保存することを優先するかという選択がありました。最終的には重要な手紙部分を守るために解体が選ばれましたが、その判断が正しかったかどうかは、100年後の保存状態に委ねられます。修理に関わる人々は、未来に対して責任を持つ立場にあることがわかります。
さらに、修理に必要な和紙や漆、刃物などの材料を作る職人の減少も課題です。技術を支える素材が失われつつある現状は、文化財の保存にも影響を与えています。
そのため、襖の黒縁の木枠には建物の歪みに合わせたわずかな傾きがつけられています。見た目にはほとんどわからない部分ですが、元の場所にきちんとはめ戻せるようにする工夫です。作品そのものだけでなく、置かれる場所まで考えた修理であることが伝わってきます。
麟祥院本堂障壁画「雲龍図」 麟祥院(場面替えあり:画像は東面(4/4~5/17)、5/19~西面展示)
展示では、修理前後の状態や工程の違いも確認でき、どのような判断が行われたのかを知ることができます。修理は一つひとつ内容が異なるため、同じ方法が繰り返されるわけではありません。個別の状況に応じた対応が必要になる点も、この分野の特徴です。
左:「弥勒下生変相図」妙満寺 Ⅱ期展示(5/9~5/31)、右:「十一面観音立像」乙訓寺 Ⅱ・Ⅲ期展示(5/9~6/28) ともに重要文化財
今回の展覧会では、修理の映像を上映するほか、判断が分かれる事例について来館者に問いを投げかける展示も用意されています。どの選択が適切だったのかを考えながら、文化財の未来について自分なりに考えるきっかけになります。地元京都の方々が自転車で訪れることも多く、幅広い世代に親しまれています。
修理の裏側には、「この作品を残したい」という切実な想いがあります。その想いこそが、文化財を未来へとつないでいく大きな原動力となっています。まずは作品そのものの迫力と美しさを感じ、その価値を守り続ける人々の情熱にもぜひ触れてみてください。
私たちは、博物館や寺社で文化財を目にする際、それが当たり前に残されていると感じがちです。しかし実際には、長い時間を越えて現在に伝わるまでに、絶え間ない修理が重ねられています。学芸員の竹嶋さんに話を伺うと、その裏側には技術だけでなく、多くの判断と責任があることが見えてきます。
阿弥陀如来坐像 重要文化財 泉屋博古館(通期展示)
文化財修理が目指す「現状維持」という考え方
文化財修理において現在重視されているのが「現状維持」という考え方です。これは、今伝わっている状態をそのまま次の時代へ残すという原則に基づいています。たとえば絵画で色が薄くなっていたり線が欠けていたりしても、想像で描き足すことは行いません。補強のために紙を当てることはあっても、新たな表現を加えることは避けられます。これに対して「復元」は、制作当初の姿に戻す行為です。両者の境界は単純ではありませんが、仏像のように信仰対象となるものでは、欠けた部分を補う場合もあります。その際も、後世の研究者が判別できるようにし、次の修理で取り外せるようにしておくことが基本となっています。見た目を整えることよりも、歴史的な情報を残すことが優先されている点が特徴です。
修理前の「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」重要文化財
美しくよみがえった「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」
塩川文麟筆 報恩寺本堂障壁画「群仙図」京都府指定文化財 報恩寺(前期展示 4/4~5/17)
修理は現状維持、くりぬかれた目に新たに表現は付け加えない
宝珠台 京都府指定文化財 海住山寺(Ⅰ期展示)
技術と判断が問われる修理の努力
修理の現場では、高度な技術とともに、正解のない判断が求められます。絵画修理の中でも難しい作業の一つが、裏側に貼られた「肌裏紙」を剥がす工程です。絹本の作品では、裏彩色を傷つけないよう慎重に湿らせながら少しずつ進めていきますが、1日にわずか10cm四方しか進められないこともあります。手先の技術だけでなく、集中力を保ち続けることが必要とされます。
左:釈迦如来立像 右:毘沙門天立像 ともに河内長野市指定文化財 大阪・下岩瀬薬師保存会(通期展示)
大工頭中井家関係資料のうち「数寄屋建地割 千利休好 山崎妙喜庵有之」重要文化財 中井正知・中井正純(大阪市立住まいのミュージアム寄託)(作品入替で通期展示)また、上賀茂神社の大切な手紙を貼り付けたアルバムである「大手鑑」の修理では、将来また歪むことを覚悟の上でたわんだ台帳に貼り戻すか、あるいは台帳から手紙を取りだし、手紙が折れないよう平置きで保存することを優先するかという選択がありました。最終的には重要な手紙部分を守るために解体が選ばれましたが、その判断が正しかったかどうかは、100年後の保存状態に委ねられます。修理に関わる人々は、未来に対して責任を持つ立場にあることがわかります。
さらに、修理に必要な和紙や漆、刃物などの材料を作る職人の減少も課題です。技術を支える素材が失われつつある現状は、文化財の保存にも影響を与えています。
想いが込められた「竜」の襖絵
展覧会の中でも印象に残るのが、「竜」の襖絵です。この作品は、所蔵者の「残したい」という強い想いが修理の原動力になったと竹嶋さん。現在は博物館で保管されていますが、仮に将来再び寺院の建物に戻すことになったとしても大丈夫なように修理が行われています。そのため、襖の黒縁の木枠には建物の歪みに合わせたわずかな傾きがつけられています。見た目にはほとんどわからない部分ですが、元の場所にきちんとはめ戻せるようにする工夫です。作品そのものだけでなく、置かれる場所まで考えた修理であることが伝わってきます。
麟祥院本堂障壁画「雲龍図」 麟祥院(場面替えあり:画像は東面(4/4~5/17)、5/19~西面展示)
住友財団が支える修理の取り組み
今回紹介されている約30件の修理案件は、住友財団の助成によって実施されたものです。対象は仏像や絵画、染織品など幅広く、それぞれに異なる課題があります。財団は長年にわたり、見た目を整えることではなく、歴史的価値を保つための修理を支援してきました。展示では、修理前後の状態や工程の違いも確認でき、どのような判断が行われたのかを知ることができます。修理は一つひとつ内容が異なるため、同じ方法が繰り返されるわけではありません。個別の状況に応じた対応が必要になる点も、この分野の特徴です。
左:「弥勒下生変相図」妙満寺 Ⅱ期展示(5/9~5/31)、右:「十一面観音立像」乙訓寺 Ⅱ・Ⅲ期展示(5/9~6/28) ともに重要文化財
泉屋博古館について
泉屋博古館は、住友家のコレクションをもとにした東洋美術の美術館で、中国古代青銅器や書画、仏像などを収蔵しています。館内では作品を、展示の流れに沿ってゆっくり見ていくことができます。今回の展覧会では、修理の映像を上映するほか、判断が分かれる事例について来館者に問いを投げかける展示も用意されています。どの選択が適切だったのかを考えながら、文化財の未来について自分なりに考えるきっかけになります。地元京都の方々が自転車で訪れることも多く、幅広い世代に親しまれています。
文化財を未来へつなぐために
文化財修理は、単に見た目を整える作業ではなく、「何をどのような形で次の100年に伝えるか」という、終わりのない議論と決断の積み重ねです。作品を見るだけでなく、その背景にも目を向けることで、理解が深まります。修理の裏側には、「この作品を残したい」という切実な想いがあります。その想いこそが、文化財を未来へとつないでいく大きな原動力となっています。まずは作品そのものの迫力と美しさを感じ、その価値を守り続ける人々の情熱にもぜひ触れてみてください。
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展覧会名 |
特別展「文化財よ、永遠に2026 -次代につなぐ技とひと」 |
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会期 |
2026年4月4日(土)~6月28日(日) |
館名 |
泉屋博古館 (せんおくはくこかん) |
開館時間 |
10:00-17:00(入館は16:30まで) |
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住所 |
京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24 |
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アクセス |
地下鉄東西線 蹴上駅 徒歩約20分 |
休館日 |
月曜日(5月4日は開館)、4月24日(金)、5月7日(木)、5月8日(金) |
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電話番号 |
075-771-6411 |
入場料 |
一般1,200円/学生800円 |
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公式サイト |
https://sen-oku.or.jp/program/202604_newlifefortimelessart/ |






