冬青庵能舞台で紡がれる、継承と創造の物語
能舞台2

冬青庵能舞台で紡がれる、継承と創造の物語

冬青庵能舞台

烏丸御池から歩いて3分。住宅街に「冬青庵能舞台」はあります。
木の香りが満ちる空間に一歩足を踏み入れると、張りつめた静けさの中に、穏やかな温もりを感じます。



この舞台を守り続けるのは、観世流能楽師であり重要無形文化財総合指定保持者の青木道喜(あおき・みちよし)さん。長年にわたり能を演じ、教え、創り続ける青木さんの言葉には、芸術家としての誇りと覚悟が感じられます。

逃れられない、能という宿命

厳格な先代のもとで幼い頃から稽古に励んできた青木さん。
中学生の頃には「別の道もあるのでは」と思ったこともあったそうですが、高校生になる頃には、数日稽古を休むと何かが足りないように感じ、「稽古をするとスカッとする」と振り返ります。

「将来への希望を持って継いだというより、身体の底から能が沁みついていた。できるできないではなく、逃れられない道でした」と穏やかに笑う青木さん。その表情には、伝統を受け継ぐ者としての静かな覚悟がありました。

「あたらしきことは、よきこと」

新作能創作への姿勢について問うと、青木さんは世阿弥の言葉「新作を作ることがこの道の命」を引用し、「時代が変わっても本質的なものは変わりません。人の喜びや悲しみ、情念が能の核です」と言います。

宮沢賢治や仏教思想など、自身の感性に響いた題材をモチーフとして取り入れ、自らの表現を探究し続けています。「作品を世に出すときにどう見えるか。それは苦しみでもあり、楽しみでもある。観る人が舞台を後にするとき、心のどこかが少しでも変わっていれば、それが何よりの喜びだ」と話します。

冬青庵能舞台という“呼吸する空間”

冬青庵能舞台では、観客との距離が近く、動きの1つ1つが際立ちます。「精緻な動きを求められる分、集中力も高まります。屋外の舞台も好きです。核にあるものは同じ。」と青木さん。

また、この舞台は能だけでなく、音楽やダンスなど他ジャンルの公演にも利用されています。奥様によれば「能を知らない方でも、音の響きや木造の美しさに感動される」とのこと。青木さんも「他の表現者がこの舞台の上でどう佇むかを見るのは大変参考になります」と語ります。

文化を共有する場としての能舞台。その柔軟な姿勢が、多くの人心を惹きつけています。

教えることで、また学ぶ

青木さんの教室には、10代から80代まで幅広い世代の生徒が通います。「生徒さんに短い言葉を投げかけ、その受け止め方を見ることで、こちらの学びにもなります」と話します。

思いもよらない発想をする生徒から刺激を受けることも多く、「良いと思ったものは迷わず取り入れる」という姿勢が、伝統の中に新しい風を吹き込みます。

次世代へと続く炎

息子の青木真由人さんも現在修行中。立命館大学で法学を学びながら、「能の本質を現代に合わせて伝えていくことが大切」と語ります。青木家の舞台は次の時代へと受け継がれています。


青木道喜様・真由人様

文化が平和をつくる

「戦争が頻発する今だからこそ、文化の力でこの空気を混ぜ返したい」。取材の最後に青木さんが語ったこの言葉が印象的でした。

能という古典芸能の枠を越え、文化の力で人々の心をつなぎたい――。冬青庵能舞台は、静かな空間の中に確かな希望を灯し続けています。



施設名 冬青庵能舞台(とうせいあんのうぶたい)
住所 京都市中京区両替町通二条上る北小路町
アクセス 丸太町駅から徒歩3分
電話番号 075-241-2215
公式サイト https://touseian.jp/
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