舟屋に息づく「日常」を慈しむ。伊根町が未来へつなぐ、暮らしと観光の新しい形
伊根町

第20回伊根町観光写真コンテスト伊根町商工会会長賞作品

舟屋に息づく「日常」を慈しむ。伊根町が未来へつなぐ、暮らしと観光の新しい形

京都府北部、丹後半島の北に位置する伊根町。伊根湾沿いに約230軒もの舟屋が並ぶ景観で知られ、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。

近年は海外からの旅行者を中心に注目度が高まり、国内外から多くの人が訪れる観光地となりました。その中で、伊根町は観光を前面に押し出すのではなく、地域の暮らしと共存するかたちを大切にしてきました。現在の伊根町では、増加する観光客と、そこで暮らす住民の日常をどう両立していくのかという課題に向き合っています。

今回は、伊根町が今どのような状況にあり、どのような取り組みを進めているのかを伊根町役場の上岡さんに詳しく伺いました。

 

世界から注目を集める伊根町。増える観光客の流れ

伊根町の観光客数は、令和元年の約35万人から、令和7年には53万人にまで増加しています。特に近年はインバウンド需要の高まりが大きく、町を歩いていると海外からの旅行者の姿を多く見かける状況です。

宿泊客についても、1/3が外国人旅行者となっており、伊根町は国内だけでなく、国際的な観光地としても知られる存在になっています。

伊根町の魅力として語られることが多いのが、海辺に連なる舟屋の景観です。1階が船置き場、2階が居住空間となった独特の建築様式は、漁業と暮らしが密接につながってきた伊根ならではの文化です。
 
また、伊根町は「日本で最も美しい村」連合にも加盟しており、海と山に囲まれた町並みや、今も続く漁師町の暮らしや文化が高く評価されています。

しかし、伊根町が現在重視しているのは、急速に高まる観光需要に対して、町の暮らしや環境をどう守っていくのかという点です。

第23回伊根町観光写真コンテスト伊根町長賞作品

伊根町が直面する「オーバーコンセントレーション」という課題

観光客が増えること自体は、地域にとって大きな活力になります。一方で、伊根町では現在、「オーバーコンセントレーション(一極集中)」と呼ばれる課題が大きくなっています。

情緒ある街並みをゆったりと楽しむために

伊根地区は、海沿いに舟屋が連なるコンパクトな地域です。古くから続く町並みや、人々の暮らしが近い距離で営まれていることが魅力ですが、大型車両や多くの車が重なる時間帯には、通りが混み合い賑やかに感じられることもあります。

特に週末は交通量が増えやすく、訪問時間を少しずらしながら、この町ならではの“ゆるやかに流れる時間”を意識して過ごすことが推奨されています。
 

「生きた暮らし」がつくる景観への敬意

「舟屋」は、現在も住民の方々が生活を営み、漁業を続けている大切な私有地です。観光施設として整備された建物ではなく、今も日常が続いている場所だからこそ、この独特の景観が保たれています。

そのため、訪れる際には「誰かの暮らしの場にお邪魔している」という意識を持つことが大切になります。私有地へ無断で立ち入らないことや、住民の生活動線を妨げないことなど、一人ひとりの配慮が、住民の方々との穏やかな関係にもつながっています。
 

共に築く「持続可能な観光」への歩み

近年は観光需要の高まりとともに、住民の間でも「暮らし」と「観光」のバランスについて考える機会が増えているそうです。住民アンケートでは、生活環境への影響を懸念する声もあがっています。

こうした背景には、伊根町が「観光地」である前に、「人が暮らす町」であり続けたいという思いがあります。観光によって地域が活性化する一方で、住民の日常や漁業の営みが守られなければ、伊根町らしさそのものが失われてしまいます。

だからこそ現在の伊根町では、訪れる側と迎える側が互いに配慮し合いながら、より良い共生の形を築いていくことが大きなテーマになっています。

「受け皿整備」伊根町が進める取り組み

現在、伊根町では観光に関する広報的な取り組みよりも、受け皿となるインフラ整備に重点を置いています。

観光客数が増えている今、さらに人を呼び込むことよりも、まずは安全で快適に過ごせる環境を整えることを優先しているのです。交通対策としては、週末や連休に交通誘導員を配置し、混雑緩和に取り組んでいます。また、臨時駐車場の開設なども進められています。

さらに、伊根町では日帰り観光に集中しすぎないよう、「滞在型観光」への転換も進めています。宿泊施設の開業支援や改修補助を行うほか、公設民営の飲食店整備にも取り組み、町内でゆっくり過ごせる環境づくりを進めています。

加えて、海の京都DMOと連携し、観光マナーの啓発活動も積極的に行っています。「見る場所」ではなく、「人が暮らす町を訪ねる」という意識を持ってもらうことが、伊根町にとって非常に重要になっています。

伊根の日常を感じられる「うみゃーもん祭」

一方で伊根町では、地域に根差した行事が今も大切に受け継がれています。その一つが、秋頃に開催される「うみゃーもん祭」です。

このイベントは、伊根町の一次産業をテーマにした産業祭で、海産物や地域の食文化など、伊根の暮らしと産業を身近に感じられる催しとなっています。地域の日常や営みを知るきっかけとして親しまれています。

伊根町の魅力は、舟屋の景観にとどまりません。漁業や食文化、地域の人々の暮らしなど、長い時間をかけて受け継がれてきた生活文化そのものにあります。


 

「生きた文化遺産」伊根町

上岡さんは、「伊根の舟屋は、単なる撮影スポットではなく、人が暮らしている場所」だと話します。

伊根町は、今も暮らしが続く「生きた文化遺産」です。舟屋が並ぶ美しい景観も、その背景には日々の営みがあり、観光地としての側面と生活の場としての側面が重なり合って成り立っています。

訪れる人にとっても、特別な場所であると同時に、誰かの暮らしの延長にある場所であることを意識することで、見え方は大きく変わっていきます。

静かな時間の中で町を歩き、その空気に触れることで、伊根町の魅力は景色だけでなく、その奥にある人の営みへと広がっていきます。

第21 回伊根町観光写真コンテスト伊根町文化協会会長賞作品
 
アクセス
【電車+バス】(約3時間)
・京都駅から:JR山陰本線 天橋立駅下車 路線バスに乗り換え

【自動車】(約2時間)
・京都市内から:京都縦貫道、国道176・R178経由
 
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