【観光業 補助金】 国と自治体による支援制度を徹底解説!
先行き不透明な国際社会・経済状況下において、多くの事業者は引き続き厳しい事業運営に直面しています。収束したとはいえ、コロナ禍で大きなダメージを受けた観光業界もその例外ではありません。
この記事では、観光業が活用できる補助金について、国による支援策と自治体による支援策を詳しく解説します。
主なポイントは次の3点です。
- 補助金の概要
- 観光業が抱える課題
- 解決へ向けての取り組み事例
目次
補助金とは
補助金とは、国や自治体が目指す政策実現に向けて動く中小企業や小規模事業者をサポートするためのお金です。企業に支払われる補助金は、事業の効率的な推進と、維持・拡大を図ることを目的にしています。
また、補助金は国の政策ごとに分かれており、設備投資や人材育成、起業など様々な分野があります。事業者の積極的な取り組み次第で、運転資金の確保も可能です。なお、補助金は申請すれば必ず給付される制度ではありません。採択されるかは審査に通る必要があり、補助対象経費や補助率・補助上限額も設定されています。
補助金は一般の融資とは違い、返済の必要がありません。補助金受給可否や金額は事前の審査と事後の検査によって決定され、原則として後払いとなるため、事業を運営する際には、事前に一定の資金を準備しておく必要があります。
補助金と助成金の違い
補助金は、主に経済産業省(中小企業庁)や、全国の地方自治体が管轄しており、中小企業や小規模事業者を支援する制度です。産業の復興・改善や創業時における支援、地方経済活性化などを軸として、多種多様な目的で実施されています。
助成金は、主に厚生労働省が所轄し、雇用促進や人材育成、また雇用環境改善を目的とする支援策が中心です。補助金の原資は国民が負担する税金であり、助成金の原資は雇用保険料となっています。どちらの給付金も、事業者が作成した計画を実施事務局に届け出て、交付決定後にその計画を実施して報告しないと資金が交付されません。
また、資金用途が限定されており、実施目的や条件に合致しているかどうかを厳格に審査されますが、返済の必要がない点では共通しています。補助金は厳格な審査があり、不採択となる場合があります。一方、補助金の場合は基本的に申請要件を満たし、申請手続きに瑕疵がなければほぼ全件採択されるのが大きな特徴です。
観光業の現状と課題
政府は地域経済を循環させる効果が高い環境業に対して「観光立国推進基本計画」を策定し、今後とも成長戦略の柱であり、地域活性化の切り札と位置づけています。
計画の骨子は次のとおりです。
- 持続可能な観光地域づくり戦略
- インバウンド回復戦略
- 国内交流拡大戦略
参照:閣議決定文書
現状と課題
コロナ禍前から観光・宿泊業は様々な課題を抱えていましたが、団体客を中心とするインバウンドの増加もあり、なかなか改善が進まなかったのが現状です。
- 老朽・非耐震施設の更新・改修が進展しない
- 自社ホームページを活用・改善するITスキルが発展しない
- 旅行需要の「季節変動」が激しいため非正規雇用が多く、従業員の知識やスキルが向上しない
- DXの必要性が認識されていないために、効率的な事務処理対応などに支障がある
課題解決へ向けて
上記のような課題を解決するため、政府は主に次のような取り組みを進めています。
- 施設改修等を通じた「面的活性化(*1)」への取り組み
- DMO(*2)でのデータ活用を通じた「面的DX」への取り組み
- 個別の宿泊・観光施設や飲食・物販事業者などの観光DXへの取り組み
- 二次交通の整備や利便性向上を目指した「MaaS」(*3)の取り組み
(*1)個々の企業や商店を「点」と考えた場合、地域全体を「面」としてとらえる表現
(*2)観光地経営の司令塔機能(Destination Marketing Organization)
(*3)地域住民や旅行者の移動ニーズに対応し、複数の公共交通を最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス
観光業が活用できる補助金について
観光業が活用できる補助金について、国(国土交通省・観光庁)および地方自治体が実施する主な支援施策をそれぞれ取り上げて解説します。
国(国土交通省・観光庁)が支援する補助金
観光庁は、2024年の活動予算に、令和5年度第一次補正予算(総額予算:約689億円)を計上しました。令和6年度には総額で503億円の予算を計上しています。
主な補助金の項目(具体的な補助金施策件数)は次のとおりです。
- 持続可能な観光地域づくり(10)
- 地方を中心としたインバウンド誘客の戦略的取り組み(17)
- 国内交流拡大(2)
参照:観光庁
具体的な補助金施策をいくつか挙げます。
特別な体験の提供等によるインバウンド消費の拡大・質向上推進事業
日本が世界に誇る様々な観光資源に加え、これまであまりスポットが当たってこなかった未公開・非混雑エリアも活用し、新たなインバウンド需要を掘り起こすとともに、新鮮な体験が得られるよう注力します。
地方での観光体験を推進し、各地域での消費を一層拡大するため、地方の自然や伝統文化を活性化し、「食」の地産地消や地域人材の活用を進めることで、付加価値が高く地域の目玉となるような「地方プレミアム体験コンテンツ」の創出を推進します。
補助額・補助限度額・対象事業は下表のとおりです。
補助額 | 1/2 |
補助限度額 | 最大37,500,000円 |
対象事業 | インバウンド対策に関する高度な付加価値を提供するもの |
詳細は下記公式サイトをご参照ください。
参照:特別な体験の提供等によるインバウンド消費の拡大・質向上推進事業 公式サイト
サステナブルな観光コンテンツの高度化モデル事業(実証事業)
我が国の地域に根付く自然・文化・歴史・産業等を活用し、『観光利用を地域資源の保全に還元するための好循環の仕組みづくり』を進めることで、地方誘客・インバウンドの消費拡大による地域化を通して、後継者不足等の地域が抱える課題の解決にも寄与することを目的とします。
概要および補助額は下表のとおりです。
概要 | 補助額 |
サステナブルな観光コンテンツの高度化モデル事業(調査事業) 質の高い専門ガイドの確保・育成等による総合的なサービス水準の向上(商品魅力向上・品質管理・安全対策強化等) 地域が一体となった自走可能なビジネスモデルづくり等 |
一件あたり上限2,000,000円(自然・文化・歴史・産業等) |
サステナブルな観光コンテンツの造成に必要な受入環境整備(補助事業)事業イメージに取り組むこと | 一件あたり上限5,000,000円(施設改修・整備、設備導入・物品購入) |
詳細は下記公式サイトをご参照ください。
参照:観光庁「サステナブルな観光コンテンツの高度化モデル事業(実証事業)の公募を開始します」 公式サイト
地域観光新発見事業
地域の観光資源を活用した地方誘客に資する観光コンテンツについて、十分なマーケティングデータを活かした磨き上げから適時適切な誘客につながる販路開拓及び情報発信の一貫した支援を実施するものです。
この事業を活用することで、国内外の観光客の地方誘客を促進するため、インバウンドに限らず国内観光客の地方誘客に資する観光コンテンツの造成を行うことができます。
補助額・補助限度額は下表のとおりです。
補助額 |
補助率:4,000,000円まで定額(4,000,000円を超える部分については補助率1/2) 補助上限:12,500,000円 最低事業費:6,000,000円 |
その他詳細は下記公式サイトをご参照ください。
参照:地域観光”新発見”事業 公式サイト
その他、多岐にわたる施策の内容・詳細については下記をご参照ください。
参照:観光予庁算
地域における受入環境整備促進事業
旅行者と地域住民の双方にとって快適かつ安全な旅行環境を実現するための受け入れ環境整備やオーバーツーリズムの防止を目的とするものです。
主な事業と対象事業者および補助率は下表のとおりです。
主な事業 | 対象事業者 | 補助率 |
持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備促進 | 地方公共団体、DMO、民間事業者など | 1/2、1/3など (オーバーツーリズムの未然防止に資する受入環境整備は2/3) |
インバウンド先進車両導入支援事業 | 地方公共団体など | 1/2 |
インバウンド安全・安心対策推進事業 | 民間事業者、地方公共団体、DMO など | 1/2 (一部は上限500万円) |
宿泊施設の受入環境整備 | 宿泊事業者 | 1/2など (上限500万円) |
詳細は下記公式サイトをご参照ください。
参照:観光庁「令和6年度持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業の公募を開始します」 公式サイト
観光地・観光産業における人材不足対策事業
宿泊業の人手不足解消のため、採用活動支援やDX化推進、外国人材の活用などを通じ、あらゆるフェーズで総合的に支援策を実施するものです。
対象事業および補助率・補助上限額は下表のとおりです。
対象事業 | 補助率 | 補助上限額 |
労働集約的な業務から人材を解放し、サービス品質の向上や賃金上昇を実現するための設備投資 | 1/2 | 1施設あたり500万円 (1事業者あたり3施設が上限) |
参照:観光庁「観光地・観光産業における人材不足対策事業」 公式サイト
持続可能な観光推進モデル事業
国際的な課題である持続可能な観光推進へ向けて、日本版ガイドラインを基に自然や地域資源の保全・活用を進めることを目的とします。
事業内容と対象事業者および補助率・補助上限額は下表のとおりです。
事業内容 | 対象事業者 | 補助率 | 補助上限額 |
地域における持続可能な観光計画の策定支援 | 地方公共団体、DMOなど | 1/2 | 500万円 |
参照:観光庁「令和6年度持続可能な観光推進モデル事業の公募を開始します」 公式サイト
ブルーツーリズム推進支援事業
ALPS処理水における海洋放出の風評対策として、海洋レジャーを中心とするブルーツーリズムを推進し、観光客の増加と定着を目指すものです。また、津波で損壊した海水浴場の設備の新設も推進します。
補助対象事業と補助率・補助上限額は下表のとおりです。
補助対象事業 | 補助率 | 補助上限額 |
1.海水浴場等の受入環境整備 2.海の魅力を体験できるコンテンツの充実 3.海にフォーカスしたプロモーション 4.ブルーフラッグ認証の取得に向けた取り組み |
8/10 | 一般的な取り組みの場合3,000万円を目安 (海水浴場等の受入環境整備に関連する施設・設備の改修を含む場合は5,000万円) |
参照:観光庁「令和6年度ブルーツーリズム推進支援事業の公募を開始します」 公式サイト
地方自治体が支援する補助金(抜粋)
地方自治体が支援する補助金は多岐にわたりますが、ここでは主要な自治体による支援施策を抜粋して解説します。
東京都
東京都では、観光事業者が活用できる補助金を多数用意し、支援しています。
一例を挙げると次のような補助金があります。
宿泊施設活用促進補助金
補助対象事業者 | 補助額 |
都内において旅館業法の許可を受けて「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」を行う施設を運営する者 |
補助対象経費の1/2(中小事業者は2/3以内) 1施設あたり上限5,000,000円 |
その他にも数多くの支援策があります。詳細は下記をご参照ください。
参照:東京都産業労働局
大阪府
大阪府では、都市魅力創造局企画・観光課が中心となって様々な支援施策を展開しています。
一例を挙げると次の補助金があります(現在は募集終了となっています)。
大阪府宿泊施設のおもてなし環境整備促進事業(補助金)
大阪府内の宿泊施設および民泊施設における、来阪旅行者の利便性や快適性を向上させるための受入対応強化の取り組みを支援します。また、特区民泊施設においては施設経営に必要な特定認定の取得に向けた消防設備の整備も支援します。
その他にも数多くの支援策があります。詳細は下記をご参照ください。
参照:大阪府
愛知県
愛知県では、様々な補助金を展開しています。
一例を挙げると次の補助金があります。
愛知県宿泊事業者高付加価値化促進事業費補助金
高付加価値化改修を実施する宿泊施設を所有、管理または運営する者に対し、事業の実施に要する経費の一部を支援することにより、生産性向上につなげるものです。
補助対象と補助率はそれぞれ下表のとおりです。
補助対象 | 補助率 | 補助上限額 | 補助下限額 |
大企業 | 補助対象経費の1/2以内 | 1施設あたり1億円 | 同1,000,000円 |
中小企業 | 同2/3以内 |
その他にも、産業労働課が窓口となって各種の補助金施策を展開しています。
詳しくは下記をご参照ください。
参照:産業労働課
京都府
京都府での観光業への支援策を挙げます。
京都府・京都市連携周遊観光ツアー造成支援事業
京都府と京都市が連携し、「もうひとつの京都」エリア(※1)と「とっておきの京都」エリア(※2)での周遊観光を推進することを目的とし、当該地域を巡る観光ツアーを造成・販売する事業者を募集するものです。
(※1) 海の京都、森の京都、お茶の京都、竹の里・乙訓の4エリア
(※2) 伏見、大原、高雄、山科、西京、京北の6エリア
主な支援内容と対象事業者の要件は下表のとおりです。
支援内容 | 対象事業者の要件 | |
参加者向け | 周遊観光ツアー参加者1人当たり最大3,000円を補助 | 第1種旅行業、第2種旅行業、第3種旅行業または地域限定旅行業の登録をしている事業者であること 京都府内に本店、支店、営業所又は事務所を有すること など |
事業者向け | プロモーション費用として事業者1者当たり最大200,000円を補助 |
参照:京都市情報館「京都府・京都市連携周遊観光ツアー造成支援事業 事業者の募集開始」 公式サイト
まとめ
全国の観光業が活用できる補助金について、国(国土交通省・観光庁)および地方自治体が実施する主な支援施策をそれぞれ取り上げて解説しました。
国の支援策や各自治体の支援策は非常に多岐にわたっており、自社が事業を営む地域で様々な補助金を活用することができます。
本記事が、補助金活用の助けになれば幸いです。
Recommend
おすすめ記事
New Topics
新着記事