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オーバーツーリズムとは? 現状と国・自治体による対策を徹底解説!

世界的なパンでミックとなったコロナ禍が収束し、国内外の主要な観光スポットには多くの観光客が訪れています。その反面、「オーバーツーリズム」といわれる問題も拡大し、多くの観光都市が頭を抱えている状況です。

この記事では、オーバーツーリズムの現状と課題、国内外の主な観光都市での取り組みについて詳しく解説します。

 

主なポイントは次の3点となります。

  • オーバーツーリズムとは

  • オーバーツーリズムの現状と課題

  • 国と自治体による主な取り組み

 

オーバーツーリズムとは?

オーバーツーリズムとは、特定の観光地で、訪問客が急激に増加することによって当該地域で暮らす住民の生活、自然環境や景観が損なわれ、悪影響を与える状況を指します。

その結果として、せっかく訪れた観光客自身も満足度が低下してしまい、マイナスの環境が生じてしまいます。

世界中の観光地でオーバーツーリズムが拡大しており、観光客の増加が原因の交通渋滞や、ゴミ・騒音などによる生活環境の悪化によって地域住民の反発が生じ、観光地が閉鎖されるといった事例も発生しています。

 

インバウンド観光客の状況

訪日外国人旅行者(インバウンド観光客)数の推移をみると、世界的パンデミックとなった新型コロナウイルスの影響で2020年以降は大幅な落ち込みとなりましたが、政府主導による2022年10月の水際対策の緩和以降は増加傾向となりました。

その後、2023年の訪日外国人旅行者数は約2,507万人と、コロナ前(2019年:3,188万人)の79%に迫る水準まで回復しました。

月次ベースでみると、2024年4月における訪日外国人旅行者数は約304万人と、2019年同月比で104%増となり、昨年10月から7か月連続でコロナ前の水準を回復しました。四半期でみても、本年1〜3月の累計で約856万人と過去最高となっています。

主な要因としては、米国・韓国・台湾・フィリピン・香港などからの訪日インバウンド観光客の伸びが挙げられます。

また、インバウンド観光客の消費額をみても、2023年における訪日外国人の消費額は5.3兆円と過去最高(2019年は4.8兆円で、2019年比10.2%増)となりました。2024年1〜3月期の訪日外国人消費額は約1.8兆円となり、四半期としては過去最高でした。

訪日外国人(一般客)一人当たりの旅行支出は、約21万円(2019年比34.2%増)であり、これを費目別にみると、宿泊費や娯楽等サービス費、交通費などが上昇しています。この主な理由としては、平均の宿泊数が拡大したこと(8.8泊から10.1泊へ)や、急激に進行した円安と物価上昇の影響などが考えられます。

参照:国土交通省「観光の現状について」資料

 

オーバーツーリズムの現状と課題

オーバーツーリズムの現状と課題における主なポイントを解説します。

 

景観が悪化する

豊かで美しかった観光地の自然環境や景観そのものが、観光客によって破壊され、傷つけられる事例が増加しています。

また、歴史的建造物の周辺が過度に開発され、ホテルや関連商業施設が林立してしまう状況も指摘されています。

 

地域住民の生活環境が悪化する

観光客が急増することで、地元の住民は日常生活に様々な支障が生じます。

具体的には、交通渋滞が激化することで、通勤や買い物といった移動が困難となり、混雑した道路で時間を浪費し、ストレスを抱えます。

また、観光客が発する騒音なども増大してしまい、静かで穏やかな環境が失われて、地域住民の生活の質(QOL)が悪化します。

 

違法な民泊などが増加する

観光客の急増によって、届出がある「民泊」以外の違法な民泊が無秩序に増加し、地域住民の生活に大きな影響を与える事例が報告されています。

違法な民泊が増えることにより、騒音だけでなく散乱するゴミの問題や近隣住民とのトラブル、そして最悪の場合には犯罪の発生も危惧される状況です。

 

マナーの問題が深刻になる

他国に観光する場合、訪問先の文化や習慣・風俗が違うため、普段心得るべきマナーに対する意識も異なってきます。観光客が良かれと思ってした行動が、現地ではマナー違反に繋がります。

具体的には、ゴミの不始末や部屋での騒音、建造物や文化財に対する配慮を欠いた行為などです。

 

経済的な損失も生じる

一見、観光客が増加すれば経済が潤うようにみえますが、反作用も指摘されています。

例えば、観光地で観光客目当てに割引クーポンを長期間乱発すると、利益が低減し、経済的な損失が生じる場合があるでしょう。

このように、観光客の増加によって地域の景観や住環境が悪化し、結果として観光地が従来持っていた魅力が失われると、長い目でみた場合には逆に観光客離れが生じてしまいます。

 

求められる対策

こうした状況を避けるためには、観光客に対する当該地域での「マナー啓発」や多言語での案内による理解を求めるなど、オーバーツーリズムへの抜本的な対策が今後の重要な課題といえます。

 

オーバーツーリズムの課題事例(主要な観光都市)

主要な観光都市で発生している、オーバーツーリズムの課題事例をいくつか取り上げて解説します。

 

京都

京都は、言わずと知れた世界的に有名な観光地である一方で、オーバーツーリズムの弊害を受けている場所でもあります。

京都が誇る美しい神社仏閣や歴史ある町並み、また四季折々にみせる美しい景色は世界中から注目されています。桜や紅葉の季節になれば、多くの観光客が京都に集中するため、観光名所を中心に大混雑します。

そして、混雑によって寺院や神社周辺の道路は渋滞が起こり、観光客が撒き散らすゴミの増加で周辺環境に悪影響を与えます。

また、地元住民の生活や住環境も大きく影響を受け、伝統的な美しい町並みが保存されている地域では住民と観光客との間に亀裂が生じているのが現状です。

 

対策

京都市ではオーバーツーリズムの様々な問題解消に向けて、観光スポットへの入場制限や混雑分散策など様々な対策を講じています。

具体的には、混雑するバス対策として、従来の「バス1日券」(乗り放題)を廃止し、地下鉄とバスをあわせて乗り放題とする「地下鉄・バス1日券」への切り替えを推進しています。

 

イタリア(ベネチア)

イタリアは、テレビや映画などでも美しい景観や歴史的な名所、美食などが紹介されているため、日本人にもなじみがある観光地として有名です。

多くの見所があるイタリアの中でも、主要な観光地のベネチアはオーバーツーリズムが顕著となっています。

イタリア北部に位置するベネチアは「水の都」として知られ、中世から残る美しい町並みや運河が人気の観光スポットです。しかし、ユネスコは観光客が増大するベネチアの「顕著な普遍的な価値」を損なう可能性があると判断し、「危機遺産」を検討しています。

住民の数をはるかに上回る観光客が押し寄せることで、ポイ捨てゴミの増加や運河の汚染、水上バス・水上タクシーやゴンドラによる運河の交通渋滞など、地域の環境汚染が大きな課題となっています。

 

対策

2024年から、観光ピーク時期(春・夏)には旧市街を訪れる日帰り観光客から1日5ユーロ入島税を徴収しています。

また、観光客への意識喚起のため「#EnjoyRespectVenezia」というキャンペーンも実施しています。

 

沖縄

沖縄は豊かな自然に恵まれ、美しいビーチや独特の生態系を有する動物などが観光客を魅了しています。しかし、繁忙期には混雑を極め、環境に大きな影響を与えています。

沖縄の海岸線や海中はマリンスポーツが有名ですが、観光客による珊瑚礁へのダメージやゴミの増加が極めて深刻な課題となっています。

宮古島では近年クルーズ船に乗る観光客が急増したことで、到着時間になると従来不足していなかったタクシーやバス利用者が増加し、地元住民が交通機関を利用できなくなる問題が発生しています。

 

対策

沖縄では海中生物の生態系保護や混雑の分散化など、様々な対策を積極的に実施し、観光業界と地元住民が連携して自然環境と文化の保護を推進しています。

具体的な取り組みとしては、生態系保護対策として「サンゴにノータッチマナー」をスローガンに啓蒙活動を実施し、また混雑の分散化対策としては「宮古島TAXIアプリ」の運用などを推進しています。

 

オーバーツーリズムへの対策

国内外の様々な観光地に大きな影響を与えているオーバーツーリズムへの対策について、国および自治体による主な取り組みを取り上げて解説します。

 

国による対策(観光庁)

観光庁は、観光客の受け入れと地域住民の生活環境の維持を両立させ、将来的に持続可能な観光都市を実現させるために具体的な取り組みを推進しています。

参照:観光庁

 

主な取り組みは次のとおりです。

オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ

オーバーツーリズムの影響で、一部の地域や時間帯によっては大きな混雑やマナー違反、またその結果として旅行者の満足度が低下するなど、新たな懸念が拡大しています。

観光庁ではオーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する関係府省庁対策会議を開催し、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を策定しました。

 

主な内容(項目)は次のとおりです。

  1. 観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応
    受入環境の整備・増強
    需要の適切な管理
    需要の分散・平準化
    マナー違反行為の防止・抑制

  2. 地方部への誘客の推進
    地方部の観光地の魅力向上や受入環境整備を通じて、都市部を中心とした一部地域への集中を是正、地方誘客を拡大


    <地方部の観光地の魅力向上>
    ・11モデル地域における高付加価値なインバウンド観光地づくりの実現
    ・全国各地で特別な体験や期間限定の取組等を様々な分野で創出し、全世界に発信
    ・中部山岳国立公園、やんばる国立公園など4国立公園における魅力向上とブランド化

    <受入環境整備>
    ・空港業務人材の確保や施設整備等への支援(熊本ほか地方空港)
    ・クルーズ船の地方寄港や新たな地方周遊航路造成等の促進(広島港等)
    ・マイナンバーカードを活用し、観光客へのデジタルポイント付与等により広域周遊を促す

  3. 地域住民と協働した観光振興
    ・地域の実情に応じた対策を促進すべく、地域住民と関係者による協議に基づく計画策定
    ・取り組み実施への包括的な支援を全国約20地域で実施し、先駆モデルを他地域に横展開
    ・各地域における課題解決に係る相談窓口を設置し、各省庁が連携し支援する体制を整備

     

各項目の内容と詳細については下記をご参照ください。

参照:観光庁(対策パッケージ)

 

オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業

観光庁では、オーバーツーリズムを未然に防止し、また抑制するため、主要な観光地域において当該地域住民や関係者による協議を重ねてきました。

その集約として、オーバーツーリズム対策に関する計画を策定し、各種の取り組みを推進することを目的とした、持続可能な観光推進事業(補助金施策)を推進しています。

 

補助の概要は次のとおりです。

補助対象 補助率
地方公共団体

2/3以内

補助上限額:80,000,000円

地方公共団体DMO・民間事業者

1/2以内

補助上限額:50,000,000円

参照:観光庁(オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業)

 

主な自治体による対策(抜粋)

上述した、京都・ベネチア・沖縄での対策以外にも、国内外の主要な観光都市では様々な対策を実施しています。

主な取り組みをいくつか取り上げて解説します。

 

岐阜県白川村

「白川郷」で有名な白川村では、従来からオーバーツーリズムの影響で交通渋滞や住民生活への悪影響に歯止めが効かず、問題となっていました。

そこで、白川村では観光シーズン(ライトアップシーズン)をターゲットとして、観光客が世界遺産である「白川郷合掌造り集落」を訪れる際にチケットの提示を求めることとしました。

観光客が入村する際には、指定された駐車場を事前予約しなければゲートを通過できないよう、チケットを配布します。

この取り組みによってオーバーツーリズムへの対策が整い、1日の入村上限人数や予約受付の機会が確保され、利便性が高まることで、観光客の受入れ環境の促進につなげています。

 

スペイン・バルセロナ

2026年に完成を迎える「サグラダファミリア」で有名なスペイン・バルセロナでは、1日あたり約17万人もの観光客が世界中から訪れ、スペインのGDPを観光業が12%を占める観光立国です。

スペイン政府観光局では、バルセロナなど有名都市に集中する観光スポットをそれ以外の地域にも拡大するよう積極的にPRすることで、観光客を他地域へと分散させ、オーバーツーリズムの回避を図っています。

なお、サグラダファミリアなどでは入場チケットを事前予約制とし、観光客の人数に制限をかけてオーバーツーリズムの緩和を図っています。

 

新潟県湯沢町

越後湯沢・湯沢温泉で有名な湯沢町では、観光客の復活と比例して人手不足が深刻化し、英語で接客できるスタッフの確保が課題となっています。

対策として、湯沢町では、新たな働き方として短時間・単発で就労が可能な「ギグワーク」という形式を取り入れ、スタッフを拡大しています。

応募したスタッフの多くは、「今まで経験のない仕事や業種に短時間でも携われることで、働くことへの楽しみが増えた」との感想を持ち、スタッフ確保へ向けた可能性が拡大しています。

 

広島県・廿日市(はつかいち)市

広島は、今や世界平和の象徴である原爆ドームで有名です。

広島の廿日市市では、世界遺産にも指定されているその原爆ドームと並んで有名な宮島(厳島神社)を訪れる観光客を対象(地域住民や、通勤・通学・障害者など一部を除く)とする「宮島訪問税」の導入を2023年10月1日付けで開始しました。

この税金の徴収税額は1人あたり100円、対象は小学生以上であり、同地が持続可能な観光地となるよう、市街地やトイレ整備などに使用することを目的としています。

これまで「入島税」という制度は沖縄の一部離島などで実施されてきましたが、観光客をターゲットとする試みは全国で初めてのことで、注目されています。

フェリーの乗車券を購入する際には、既に実施されている「宮島訪問税」が充当されるため、別に支払う必要はなく、修学旅行生も対象外となっています。


山梨県(富士山)

世界遺産に登録されている富士山ですが、その周辺地域では、長年にわたって登山客や観光客のマナー違反や混雑、世界遺産が認められないほど深刻な「ゴミ問題」に悩まされてきました。

そこで山梨県では対策として、富士登山に際して予約制度や通行料の徴収を実施しました。

具体的には、5合目にゲートを設置し、2,000円の通行料を徴収するものです。
また、登山者の上限を1日4,000人に限定し、午後4時から翌日午前3時まではゲートを閉じて登山者数制限を行っています。

 

まとめ

オーバーツーリズムの現状と課題、また国内外の主な観光都市での取り組みについて解説しました。

オーバーツーリズムが抱える課題を克服し、対策を講じた上で、新たに観光客を増大させることにより、観光地を抱える地域の経済がますます発展することが望ましい状況です。

この記事を読んで、観光地や観光業の関係者へのヒントとなればと思います。是非ご活用ください。